(1)本人・家族・親族が納得のできる仕組み作りをすること

信託は,委託者と受託者さえ合意すれば,利用をすることができます。もっとも,家族・親族と委託者・受託者の考えが必ずしも一致するとは限らず,各々の考えの違いから紛争が発生することは少なくありません。信託を利用したことで,かえって遺産争いを誘発してしまうのは,委託者も望まないでしょう。
そこで,原則として,家族や親族も全て交えた話し合いの上,全員が納得できる仕組み作りをするのが大事です。
また,当然の前提ですが,信託契約を結ぶ当事者である,委託者や受託者,受益者などは,その信託契約がどのような意味を持つのか十分に理解することが大切です。さらに,将来,信託契約の有効性が問題視されるなど,トラブルが起きては困るので,契約を結ぶ際に,委託者の方に判断能力があることをよく確認する必要があります。

 
 

(2)適切な受託者を選定すること

信託によって,基本的に,受託者が単独で信託財産を管理・処分することができるようになりますので,その権限の濫用や逸脱をどのように防ぐかが重要なポイントになります。信託法上においても,受託者がその権限の濫用や逸脱をしないよう,受託者に多くの義務が課せられているところです。
財産管理を委ねた受託者が杜撰な管理を行うと,委託者の想いが叶えられず,また他の家族や親族から不満が出て,トラブルになりかねません。そこで,受託者の選定は,慎重に行う必要があります。
受託者に不安が残る場合には,受託者を一人ではなく複数にすることや信託監督人を選任することなども検討すべきでしょう。また,受託者が死亡もしくは病気によって信託財産の管理ができなくなってしまう事態に備えて,予備的な受託者を選定しておくことも検討すべきです。

 
 

(3)遺留分に配慮すること

委託者が法定相続分と異なる財産承継を想定して家族信託を利用する場合,委託者の死亡後に遺留分権利者から遺留分減殺請求がなされる可能性があります。信託による財産承継に対し遺留分減殺請求がなされた場合の効果について,固まった判例や学説があるわけではなく,現状,その効果は不明確と言わざるを得ません。そのため,信託を利用する際は,遺留分減殺請求の可能性を念頭に置いておく必要があるでしょう。

そもそも,遺留分とは何でしょうか。遺留分とは,遺言の内容に関係なく,最低限相続できる権利をいいます(民法1028条)。例えば,遺言が,財産をすべて一人の相続人に相続させる内容だったとしても,その他の相続人は,遺留分を主張することができるというわけです。これが遺留分減殺請求です。
例えば,被相続人である甲(遺産は預金2000万円のみ)が亡くなり,その子である乙と丙が相続人である場合,甲が「私の遺産はすべて乙に相続させる」という内容の遺言を残していたとします。この場合,遺言に従えば,乙は預金2000万円をすべて取得することになりそうです。しかしながら,丙には遺留分がありますから,これを主張して,預金2000万円のうち500万円を取得することができるのです。遺留分については、こちらのページでもご説明しております

 
 

(4)二次相続など信託財産に長期間制限をかける契約となる場合

委託者が,自分の財産をどのように処分するのか,自分の死後にわたって決められるというのは,信託の画期的な機能ですが,これは,メリットである一方でデメリットともなり得るので,注意が必要です。
つまり,上記の機能は,逆に言えば,長期にわたって財産の処分等に制限がかけることになってしまうため,当事者や環境に変化が生じた場合,かえって相続トラブルや不測の事態を誘発するリスクがあるのです。
したがって,長期間,信託財産に制限をかける信託契約をする場合には,慎重な配慮が必要になります。

 
 

(5)税金等の負担があること

まず,信託契約自体に節税効果はありません。家族信託契約後に,不動産を売却するなどして,結果として相続税対策を実行することはありますが,家族信託を組むことそれ自体では税務的なメリットは生じません。
また,信託財産にした不動産に関する損失は,信託財産以外からの所得との損益通算や純損失の繰り越しをすることはできません。
加えて,税務申告での負担が発生する場合があります。
信託財産から年間3万円以上の収入がある場合は,信託計算書・信託計算書合計表を税務署に提出しなければなりません。また,信託財産から不動産所得がある人は,不動産所得用の明細書の他に信託財産に関する明細書を別に作成しなければなりません。

さらに,不動産について信託設定時などに登録免許税がかかります(固定資産税評価額の0.3%(土地),0.4%(建物))。これらの登記を司法書士に頼む場合の報酬も費用となります。

 
 

(6)贈与税や相続税などに配慮すること

信託において,財産の管理・処分権限は受託者にありますが,税制上は,受益者が財産を所有しているものとして課税されます。
そのため,委託者と受益者が同一の自益信託では,信託設定時には,所有者が変わらないことになりますので,課税はありません。
他方で,委託者と受益者が異なる他益信託では,受益者から正当な対価の支払いがなければ,委託者から受益者へ信託財産の贈与があったものとして,受益者に贈与税が課税されることになります。
また,第一次受益者の死亡によって新たに第二次受益者が受益権を取得する場合や,受益者の死亡によって受益権を受益者の相続人が相続する場合などには,相続税が課税されることになります。

このように,信託を利用する場合でも贈与税や相続税などは発生しますので,信託を利用する際には,どのタイミングでどのような税金が発生するのか,注意を払っておくことが必要になります。